イタリアの食文化を伝えたい“イタリアのごはんとワイン チルコロ”澤口 みどりさん

「人に伝える仕事をしたい」という原点から、お店立ち上げ背景と浦和への想い

さいたま市 浦和区 /「JR浦和駅」 徒歩3分

話を聞いたひと
大熊 あゆ美

━ 何を専門に活動されていますか?

浦和でイタリア料理のお店を営んでいます。2016年にオープンしたのですが、当初から「イタリアの日常で食べられているような素朴な料理とワインを召し上がっていただきたい」という想いで、私自身がオーナーとして運営し、料理も作っています。
また、コロナの影響でお店が開けられなかったとき、何かしなくてはという危機感と、自宅でも美味しいワインを楽しんでほしいという想いから、店内を改装し「cirvino(チルビーノ)」という屋号でワイン販売も始めました。改装前はテーブル席もありましたが、今はカウンター7席のみと小さな規模でお店をやっています。
ワインは、業務用の酒屋さんやインポーターさんから仕入れています。お取引している酒屋さんはヨーロッパのナチュラルワインや小規模の生産者さんのワインに特化しているところですし、インポーターさんからの情報やワインの試飲会にも足を運んだりして、うちの料理に合うな、皆さんに味わってほしいなというワインを選んでいます。イタリアの食材は業務用の会社さんに発注していますが、野菜などは普通にスーパーなどで買うことがほとんどです。お店の規模が小さいので食材をなるべく無駄にしないように購入しています。
メニューはすべてアラカルトで、品数としては、サラダや前菜が8~10種類、パスタが3~4種類、メインが2種類、デザートが2種類と週単位でメニューを変えます。もちろん定番のメニューもあるので、ゆるやかに少しずつ、季節に合わせて変えていくという感じです。常連さんも多いので、来るたびに楽しんでもらえるように変えていきたいですし、定番のメニューも喜ばれるので、バランスを見ながら考えています。それからグラスワインは、8種類ほど、日々変わっていきます。
常連さんは浦和に住んでいる方が多いですね。メインの年齢層は、40~60代でちょっと高めかな。ただ昔に比べると若い方も増えていて、特にコロナが明けた今年は20~30代の方もぐっと増えた印象です。男女比は半々くらい、ご夫婦や一人暮らしの男性、仕事帰りにふらっと寄りたい女性、お友達連れと、様々ですよ。お一人で気軽にイタリア料理やワインが飲めるお店って、意外と浦和では少ないのかもしれませんね。

今、お店とは別にバンドネオンという楽器も演奏しています。これは30歳くらいでたまたま出会って始めたんですが、おかげで地元のつながりがすごく強くなりました。「チルコロ」というくくりではなく、「澤口みどり」として付き合っていただく方が増えて、面白いなと思います。プロの方を呼んでライブを開催することもありますが、食事を楽しんでいただきながら、音楽を通してもつながれることがとても嬉しいです。

━ 活動をはじめたきっかけや経緯はなんですか?

20代は通信教育関連の会社で編集に携わる仕事をしていました。元々は編集者になりたかったんです。でも30歳になる頃、もう少し専門的な仕事をしたいと思ったのと、そもそも編集の仕事を選んだのは「自分が”いい”と思うものを人に伝える」という立場が好きだったんですよね。そこを、もっと絞りこんでいきたいと思うようになってきました。
それと、結婚はしていましたが子どもに恵まれなかったので、そこを諦めたとき、働き方を見直すことになって。やっぱり子育てしながら働くなら会社員がいいんじゃないかと、ずいぶん堅実な考えをしていたのですが「そうか、必ずしも会社員でなくてもよくなっちゃった」と、別の道を考え始めました。
そうして何をやろうかとなった時、元々食べるのも飲むのも好きだったのですが、イタリアの食文化や郷土料理にものすごく惹かれていて、これを突き詰めてみたいと思ったんです。そこからイタリアに半年間、料理を学ぶために留学して、帰国後は飲食店で働くことにしました。
もちろん、何かしらイタリアに関わる仕事、たとえば食材の会社や出版関連の会社も選択肢としてはあったわけですが、自分が直接イタリアの良さを伝えたいという原点を実現するには、やっぱり自分でお店を持つしかないのではないかと・・・。料理人になりたいと思っていたわけではないんですが、自分が出したい料理を作ってくれるシェフを探すのも違うなと思って、自分で作れるようになろうと決めました。2年ほど都内のイタリアンバールで社員として働き、経営や管理など店を運営するノウハウも学ぶことができたので、その後、1年くらい開業準備を進め、37歳のときにお店をオープンしたという流れです。夫も応援してくれたので、ありがたかったです。

━ そもそもイタリアに惹かれていった理由は?

最初は、フランス料理や中華料理など色んな料理がある中で、私はイタリア料理が食べやすいし、好きだなという単純な好み、それと身近にイタリア料理の仕事をしている知人がいたりで、漠然と好きになっていった感じでした。でも20代後半にイタリア旅行に行った時、そこにあるのは自分が知っているイタリア料理ではなくて、ものすごく衝撃だったんですよね。例えば、たまたまふらっと入ったバールで食べた、お豆を煮ただけのもの、味付けは塩とオリーブオイルだけ、というのが感動的に美味しい、とか。イタリアは郷土料理や地元の食材を大事にしようという気運が強く、その旅行でもそういったお店を中心に回っていて、尚更なるほどと思うことが多かったです。そして旅の最後に、日本人の方がシェフを務めるレストランに行く機会があったのですが、そこで食べた郷土料理も衝撃的に美味しかったのと、その方のお話が印象的だったんですよね。イタリアの食って本当に奥が深いんだよと教えていただき、目から鱗ばかりで、イタリアをもっと知りたいと思うようになりました。
半年間の留学でも、料理を勉強するのはもちろんですが、むしろ現地で自分の舌でイタリアを味わってみたい、実際の食材や生活を知りたいという気持ちが強くて、行ってみないことには始まらないと思ったんです。
料理だけを勉強するなら、日本の料理学校で学べばいい、同じ時間とお金を使うなら文化や生活を学びたいと思ったんですよね。実際に生活してみると、段々とレストランでは出ないような家庭の食事や、厨房の賄いで食べる料理に惹かれていって、これを紹介したいと思うようになっていきました。
日本料理でも、観光客の方が食べる料理と、日常の食事は違いますよね、そんな感じでしょうか。

━ チルコロさんならではのこだわりは?

毎日食べられるような味を心掛けています。ほっとできるような、「疲れない味」が私は好きで、一口目にがつっと美味しいというよりは、しみじみ美味しい料理がいいなと思っています。多分、母が作る味がそうだったんでしょうね。
メニューは、季節によって食材を考え、自分で整えたレシピで作りますが、今まで作ったことのない料理を作りたいときは、ネットや本で調べて、試行錯誤しながら作ります。イタリアの料理学校では、まずイタリア語のレシピが配られて、実際に調理し、後から日本語の翻訳がもらえるという仕組みだったので、毎晩イタリア語を調べながら翌日の授業のレシピを読み解いていました。その訓練がすごく今に生きていて、レシピならイタリア語でも分かるようになりました。ただ、イタリア料理のレシピって「適量」と書いてあることも多いんですけれど・・・。ちなみにイタリアのレストランに行くと、お母さんが料理を作って、お父さんが運んでいくというお店も多いんですが、お母さんは自分のことを料理人とは呼ばないんですよね。でも、ちゃんと美味しいし誇りを持っている。私もそんな感覚かな、と思ってやっています。


━ 今後の夢や野望、ビジョンはありますか?

今後については、悩んでいるところですね。10年後も今の働き方で続けるのかなと。
お店のテーマもできているし、運営も安定してきているので、イタリアの料理や食文化を紹介することにもう少しエネルギーを使ったらいいんじゃないかなと自分に言いながら・・・でもどこにその時間があるんだという気持ちとのせめぎ合いなんですよね。音楽での動きもあるので、整理しないと動けないなと感じています。まずは、もっと勉強しないとですね。

━ どんな人にきてもらいたいですか?

年齢問わず、どなたでもウェルカムです。単純に、食べたい、飲みたい、知りたいという気持ちのあるお客様にご来店いただけたら。カウンターだけですし、店主はあれこれ話しかけるしで、カフェみたいな使い方には向いてないです(笑)うちの食事やワイン、サービスを求めて来てもらえたら嬉しいですね。

━ 浦和への想いを教えてください

私は東京の西側で生まれ育ちましたが、夫が埼玉出身で、ずっと浦和に住みたいと言っていたので、結婚後に引っ越してきました。住んでみて、浦和はすごく面白い街だなと思いました。街としても便利ですし、どのお店に入っても距離が近くて地域のコミュニティが強いなと。実家の周りはいわゆる静かなベッドタウンだったので、びっくりしましたね。
でも最近は、人が入れ替わっている中で、個人店や昔からの商店街のつながりがないがしろにされている気もします。西口の再開発で移転してしまったお店さんも、一部は近くに移られましたが、ほとんどは浦和以外の場所に行ってしまって、なんてもったいないことをするんだろうと。東京でも魅力のある街と言われるところって、むしろローカルな香りが強かったり、駅前に個人のお店を集めていたり、そんな取組みをしているじゃないですか。浦和はそういうのが似合う街だと思っているので、個人店も入りやすいようになったらいいですよね。

小さな商売やイベントをやりたいと思ったときに、ぱっとできる街、何かやればなんとなく人が集まってくれる、そんな空気感が生まれるのってすごくいいと思うんです。浦和は比較的、何かあれば「何やっているの?」と立ち止まってくれる街だなと感じているので、それが変わらず、むしろ増えていったらいいな、と思います。

チルコロも小さな店ですが、イタリアの家庭料理や空気を味わってみたい方、お気軽に来ていただいて、少しでもイタリアを好きになってくれたら嬉しいです。

イタリアのごはんとワイン チルコロ

澤口 みどり
〒330-0064 埼玉県さいたま市浦和区岸町4丁目2−18 赤澤ビル1-A
048-799-3505(CIRCOLO(ディナー):火曜日~土曜日17:00~23:00、
  cirvino(ワインショップ):火曜日~土曜日13:00〜22:00(16:00~17:00 夕休み)
  ※日曜日・月曜日定休
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